来客応対をしていると、月に何度か来る顧客の顔と名前を、自然と覚えてしまう。
その中に、「マスク美人」がいる。
彼女は、私の中でずっと”森口博子似”だった。
初対面なのに、なぜか親しみが湧く人だった。
毎回感じる、柔らかい雰囲気。「良い人そうだな」「おじ様たちに好かれそうだな」。そんな印象を、勝手に抱いていた。
そして、ついにその日が来た。
梅雨の足音が近づく、ある日のことだった。
「ピンポーン」とインターフォンが鳴る。
玄関を開けると、そこには、マスクをしていない、マスク美人(元)が立っていた。
森口博子?
あれ、なんか違う……?
私の脳内では、ずっと森口博子だったのに、実際は――
なんというか、雰囲気の良い部分と、少し力強い印象の部分が入り混じったような、想像とは違う顔立ちの女性だった。
(褒めてます、たぶん)
でも、挨拶や笑顔は変わらなかった。確かに、ずっと応対してきた”あの人”だった。
マスクの力は、侮れない。
私も、毎日マスクをしている。というか、事務所全員が、なんとなく空気的に外せない状態だ。
きっと外せば、「ほうれい線バッチリの中年女」だとバレてしまうだろう。
マスクの奥に隠しているのは、顔だけじゃない。ちょっとした自信と、心の鎧でもある。
若い子がマスクを外せない理由も、痛いほどよく分かる。
マスクは、心の防御壁にもなる。
でも、できることなら、マスクなしでも堂々と立てる人間性を持ちたいとも思う。
とは思うものの……
でも私は、社内ニートだから。
しばらくは、マスクを手放さないと思う。
マスク美人万歳。
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