時計をチラッと見る。まだ10時3分。 さっき確認したときは10時0分だった。
たった3分。 体感では、優に30分は経ったはずだった。
社内ニートという生活を始めてから、時間の流れがおかしくなった。
1分1秒が、粘度を持った液体みたいにねっとりと過ぎていく。 世にも奇妙な物語の無限ループに迷い込んだみたいだと、本気で思うことがある。
やることがない。 だが、やることがないという事実を、誰にも悟られてはいけない。
だから、やってるフリだけは欠かさない。 終わったデータを何度も開いては閉じる。
何の生産性もない。 ただの指の運動だ。
周りが忙しそうにしているのに、自分だけ画面をぼんやり眺めているのは、想像以上に虚しい。
仕事の話題がないと、会話も減る。 報告することがない。相談することもない。
だから口数が減る。 それだけのことなのに、いつの間にか「無口でコミュ力の低い人」という扱いになっていることに気づく。
違う。 話すことがないだけだ。話したくないわけじゃない。
やることがないと、「自分は誰からも必要とされていない」という錯覚に、じわじわと侵食されていく。
錯覚だと分かっていても、8時間もその中に座り続けていれば、それはもう錯覚ではなく現実のように感じられてくる。
1日に1回あるかないかの電話や来客対応が、事務所内でちょっとした争奪戦になる。 誰が出るか、誰が案内するか。
その一瞬だけ、自分にも役割があるような気がして、変に張り切ってしまう自分がいる。
窓の外では、工事現場の土木作業員たちが働いている。
彼らには、明確な始まりと終わりがある。 専門の技術があって、社会の基盤を支えているという実感がある。
そんな彼らが、まぶしくて仕方がない。
こんなに暇なのに、なぜか疲れる。
疲れる正体は、周りの視線を気にしながら「仕事している風」を装い続ける、その緊張状態そのものだ。 何もしていないのに、気持ちだけは常に張りつめている。
そして、無駄にトイレの回数が増える。
水分を余分に摂って、個室に逃げ込む理由を自分で作る。 スマホを見ながら5分。
それが、8時間の中で唯一、心から息を吐ける時間になっていく。
社内ニートは、ラクして給料をもらえる夢のような立場だと思われがちだ。
だが、実際は精神の耐久戦だ。 時計の針が、3分しか進んでいないという事実を、これから何度も突きつけられることになる。
その事実に、私はまだ慣れていない。
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