会社の立地について、少し話しておきたい。
ここは、元は沼地だった土地を埋め立てて造られたらしい。
所長や、長くこの場所で働いている人たちが口を揃えてそう言う。
事務所が建つ前のこの土地を、実際に自分の目で見てきた人たちの話だから、ただの噂話とは重みが違う。
そう聞いてから、この土地そのものに、なんとなく呪いのようなものを感じるようになった。
そして、もうひとつ。
水道水が、めちゃくちゃまずい。
給湯室で蛇口をひねって手をすすぐたび、鼻につく独特のにおいがする。
飲み水として口にする気には、到底なれない。
「ここ、ほんとに人間が働く場所なのだろうか」
そう思わずにはいられない瞬間が、何度もある。
給料は激減し、自己肯定感も地の底に沈んでいく。
そんな中で、職場の”土地”にまで不信感を抱いてしまうのだから、我ながらどうかしていると思う。
でも、こういう些細な違和感の積み重ねが、じわじわと心を蝕んでいくのも事実だ。
きれいなオフィスビルだったら、まだ違ったのだろうか。
いや、たぶん違わない。
仕事があれば、水道水がまずかろうが、土地にどんな噂があろうが、そんなことを気にする余裕すらなかったはずだ。
暇だからこそ、どうでもいいことにまで神経が向いてしまう。
これも、社内ニートという状態が引き起こす、地味な副作用のひとつなのだと思う。
だから最近は、飲み水だけは毎日クリーンなものを持参するようにしている。
さすがに、あの水を体に取り込む気にはなれない。
食べるもの、飲むものくらいは、自分で守りたい。
これが、私にできる、ある意味での抵抗だ。
今日も、持参した水を飲みながら、私はこの沼の底に建つ事務所で、8時間を過ごしている。
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